【小売業IT部門が教える】オムニチャネルに必要なシステム開発の全知識

この記事にたどり着いた方は、オムニチャネルに取り組みたいのだけれど、どのようなシステム開発が必要なのか良く分からないという方が多いのではないでしょうか。オムニチャネルは今や大企業をはじめ中小企業でも積極的に取組まれています。しかし、オムニチャネルに必要なシステム開発について分かりやすく解説している記事はまだ多くありません。

この記事では、オムニチャネルに必要なシステム開発についてどこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。この記事を読めばオムニチャネルに取組むために自社に必要なシステム開発を理解し次のアクションにつなげることができます。

1.オムニチャネルとは

オムニチャネルとは、どこに居ても様々なデバイスを通して簡単に欲しい情報を得ることができ、そしてその時々に応じて最適な購入・受取り方法を選択できる「利便性」をお客様に提供する。そして「顧客満足度」を高めより上位のファンになってもらうことにより、売上を増やし継続的に企業が成長していくための取組みのことです。

詳しくは「時代に取り残されるな!5分で読めるオムニチャネルのすべて」で初心者でも理解できるよう分かりやすく、かつ詳しく解説してますので「オムニチャネル」についてより知りたい方はご参照下さい。

2.オムニチャネルを支えるシステム全体像

オムニチャネルは、下図のように多くの取組みの集合体のようなものです。

様々な広告、アプリやSNSを通したクーポン・情報配信、実店舗やECサイトなど様々な取組み全体を通してお客様の「利便性」と「購買体験」が最大になるように最適化していきます。物流の仕組みも変えなければなりません。

オムニチャネルシステム全体図

しかし勘違いしないで頂きたいのですが、これらすべてを行わなければならないというわけではありません。

オムニチャネルはその企業が持つ様々な販売チャネルを活用・コラボし、お客様に「利便性」を提供することにより商品を買ってもらう取組みです。店舗で売り切れていた場合に、店舗でECサイトから注文し自宅に届けてあげられるようにするというだけでも立派なオムニチャネルの取り組みです。コストと時間の掛かる取組みですから、優先度をつけて自社に必要なものを1つずつ行っていくのが良いでしょう

3.オムニチャネルに必要なシステム開発

3.1.在庫情報の一元管理

在庫-元管理イメージ

オムニチャネルでは在庫が切れていた場合に、在庫がある他のチャネルから即座に商品を取寄せ、お客様に販売する仕組みが必要です。そのためには全てのチャネルの在庫情報を一元管理し、どのチャネルの担当者も簡単に在庫があるチャネル・場所を見つけられなければなりません。

委託先の在庫情報も必要

在庫情報の一元管理が大変なのは自社在庫(直営店舗、直営EC)だけでなく、今まで管理していなかったブランド名を貸している委託販売先や委託ECの在庫情報も一元的に管理しなければならない点です。委託販売先や委託ECは、出荷時に売上計上して管理終了となり、出荷後の委託先の在庫は管理しない事も多くあります。

お客様目線のサービスを作る

お客様からしたら直営か委託かは関係ありません。どこの店舗でも在庫がなければどこかから商品を取寄せて販売して欲しいのです。一部の店舗だけで取寄せが可能なだけでは不十分なのです。お客様の利便性が最大化するよう考えましょう。

代表的なシステム開発と費用

仕組みは色々ありますが、代表的な仕組みは全チャネルの在庫を一元管理する仕組みを構築し、各チャネルの担当者が在庫をオンラインで即座に検索できる仕組みです。規模にもよりますが、数百万から1千万以上は費用を見たほうが良いでしょう。

専用のパッケージはほとんどなく、基本的に自社のシステムにあわせてカスタマイズ構築になります。データウェアハウスに在庫情報を集約し、ブラウザ型のBIツールなどで在庫を検索・参照する企業が多いようです。

3.2.顧客、ポイント情報の一元管理

顧客情報-元管理イメージ

オムニチャネルを成功させるには今までばらばらだった顧客情報を集約し、一元的に管理する仕組みが必要です。同じ会社内でも店舗で得た顧客情報、ECサイトで得た顧客情報が別々に管理されている企業がまだまだ多いのではないでしょうか。同じ企業内でもブランド毎に顧客情報を別々に持っている企業も多くあります。

3.2.1.顧客情報の一元管理が必要な理由

より良い顧客サービスを提供するため

たとえば、お客様が店舗に訪れた際に在庫が切れていたとします。他の店舗の在庫もなく残りはECサイトだけです。本当に親切な顧客サービスを提供するのであれば店頭でお客様からお金を受取り、店員がECサイトの在庫をお客様の自宅に郵送する手続きを行ってあげることです。

この時にPCやタブレットをお客様に渡し、お客様にその場でECサイトから購入してもらうのでは良いサービスとは言えません。お客様のポイントカードまたは顧客IDを預かり、その情報をもとにお客様のご自宅に商品を配送する手続きを即座に行う。それがオムニチャネルのサービスです。

このケースを行うには店舗の顧客情報とECサイトの顧客情報が一元的に管理されてなくてはなりません。他のチャネルも同様です。

顧客分析とマーケティング効果を向上させるため

お客様はその時々において、店舗で買ったりECで買ったり、さらには同じ企業の別のブランドで買ったりします。このお客様の行動すべてを把握しなければ、お客様の嗜好性を正確に把握することはできません。

また、お客様は年齢とともに嗜好性も変わります。年齢ターゲット毎にブランドを持っていて、年齢ごとにお客様を一生の顧客にしたい企業も多いのではないでしょうか。または、お出かけ用、自宅でゆっくりする用など様々な生活スタイル毎にブランドを持っていて、ブランド間でお客様を囲い込みたい企業も多いと思います。

これらを実現していくには、企業全体で顧客情報を一元管理しお客様の全体行動を分析できるようにしなければなりません。全体行動を分析できるようになれば、お客様ごとにお客様の嗜好性に合ったマーケティングが可能となります。

3.2.2.顧客情報一元管理システムの作り方

顧客管理システムを刷新する

顧客情報を一元管理するために、顧客管理システムを新しいものに変えてしまうパターンです。
チャネルが「店舗」と「ECサイト」など少ない企業は新しい顧客管理システムを導入してしまった方が手っ取り早いケースが多いです。「店舗の顧客情報」と「ECサイトの顧客情報」をマージして新しい顧客管理システムにインポートします。ポイント管理の仕組みが別々の場合、その部分も見直さなければなりません。小規模の企業であれば数百万から1千万円、中規模以上の会社であれば数千万以上は費用を見た方が良いでしょう。

顧客情報を統合する基盤を別途構築する

ブランド(事業部)も多く販売チャネルの多い会社は、システムが膨大で複雑になってしまっており、簡単にシステムを刷新できないケースが良くあります。いずれ綺麗にシステムを刷新したいけど、様々な理由で今は難しいという企業は、顧客情報を統合する基盤を別途構築する事をおすすめします。こちらも規模によりますが1千万から数千万は費用を見ておいた方が良いでしょう。

3.3.POSシステム

3.3.1.クーポン対応

モバイルアプリやメルマガを通してクーポン券などを配布している場合、店舗でそのクーポンを使用できるようPOSシステムをカスタマイズしなければならないケースがあります。

たとえば、アプリを通してQRコードクーポンを配信しているのであれば、QRコードを読めるスキャナーをレジに配置し、読み取った際にPOSシステムがクーポンの内容を判別し、「クーポン割引」として基幹業務システムに連携しなければなりません。そして基幹業務システムは勘定科目をつけて会計システムに連携します。

仕組みにもよりますが、コストは数十万から数百万程度を見ておけば大丈夫でしょう。元々機能を備えているPOSシステムであればカスタマイズは不要です。

3.3.2.会員カード対応

オムニチャネルでは、誰がいつ何を買ったのか全てのチャネルで取得し、統合された顧客管理システム、データマネジメントプラットフォームでその情報を管理します。

店舗で商品を買ってもらう際に、お客様を判別するためにポイントカードやアプリの個人QRコードまたは個人バーコードを読んで顧客IDを取得しなければなりません。そして取得した顧客IDを売上情報に紐づけて本部の基幹業務システムやデータマネジメントプラットフォームに送信します。コストは数十万から数百万程度を見ておけば大丈夫でしょう。元々機能を備えているPOSシステムであればカスタマイズは不要です。

4.さらに他社より1歩進むために必要なシステム開発

4.1.データマネジメントプラットフォーム(DMP)

オムニチャネルは、購入や配送方法を便利にするだけでは不十分です。

お客様がどこに居ても様々なデバイスを通して簡単に欲しい情報を得ることができるようにしてあげなくてはいけません。

情報の提供方法はSNSであったりメルマガであったりアプリであったり様々です。SNSやメルマガ、アプリを構築し提供することは大切ですが、「お客様の嗜好に合わない情報の提供」は単なる嫌がらせにしかなりません。場合によっては、顧客離れにもつながってしまいます。

データマネジメントプラットフォームとは、自社の顧客データやECサイト、SNSでのお客様の行動を一元的に収集・分析し、次のマーケティングアクションにつなげるための仕組みです。顧客情報が統合されているのであれば、データマネジメントプラットフォームを導入することにより、お客様の嗜好にあったマーケティングアクションを取ることができるようになります。他社より一歩進むために、データマネジメントプラットフォームの導入を検討した方が良いでしょう。

4.2.モバイルアプリ

今やスマホやタブレットは現代人の生活に欠かせない存在となりました。多くの人がスマホやタブレットなどの持ち運びが簡単なデバイスを通して情報を得ています。

お客様がどこに居ても様々なデバイスを通して簡単に欲しい情報を得ることができるようにするには、モバイルアプリの存在も忘れてはいけません。モバイルアプリを導入することにより、よりお客様との接点を持つことができるようになります。

4.2.1.無印良品の事例

無印良品アプリ

無印良品は、業界に先駆けて積極的にモバイルアプリの運用を行っています。このサービスにより無印良品は140万人もの会員を得ています。お客様、無印良品双方にメリットがあります。

お客様のメリット
  • ポイントがたまる(ポイントカードの変わり)
  • お誕生日に500円分のショッピングポイントをもらえる
  • お客様の嗜好にあったクーポン、優待券をもらえる
  • 各店舗の在庫状況を検索できる
  • 値下げ情報などの通知をもらえる
無印良品のメリット
  • ポイント機能によりまた来店してもらえる。特に女性はポイントが大好きですね。
  • お客様の嗜好にあったクーポンなどの配信により、購買頻度を増やすことができる。
  • ECサイトメインのお客様には実店舗のクーポンを、実店舗メインのお客様にはECサイトのクーポンを配信し、ECも実店舗も使ってもらえるようアプローチすることができる。いわゆるO2Oができます。
  • モバイルアプリに情報配信することにより、情報を見てもらいやすくなる。

今や情報収集はPCよりスマホやタブレットなどモバイル端末を使うほうが多い時代です。
このようにモバイルアプリは良いことが多いですが、事前に知っておくべきこともあります。

コスト

初期費用:数百万円~

作るアプリにもよりますが、開発費用を数百万円は見ておいた方がよいでしょう。アプリの運用やコンテンツの制作など人的コストも必要です。最近は、ASP型のモバイルアプリ構築・運用ツールも出てきましたので費用をもっと抑えることも可能になりつつあります。

また、アプリリリース時には多くの人にダウンロード・登録してもらうために広告を活用したり、登録時にポイントを配ったりなどしないとなかなか利用者が増えないという現実もあります。大企業にもなると登録時に配るポイントだけで金額換算すると数千万円~数億円という企業もあります。

5.まとめ

この記事では、オムニチャネルに取組むために必要なシステム投資をどこよりも詳しく解説してきました。オムニチャネルに必要なシステム投資について理解が進んだのではないでしょうか。
次は、自社の目指す姿や課題をもとにオムニチャネルの企画を練り、オムニチャネル戦略を進めて下さい。