タレントマネジメントとは、欧米で主流となっている人事・人材戦略手法です。
近年グローバル化が進み、日本企業も日本型の人事・人材管理から脱却し世界標準であるタレントマネジメントを取り入れなければグローバル社会で生き残れないと言われています。
しかし、このタレントマネジメントに本気で取組んでいる企業はまだまだ一部の企業であり、「タレントマネジメント」という言葉自体を知らない経営者・人事担当者も少なくありません。
この記事では、近年日本のトレンドとなりつつある人事人材戦略手法である「タレントマネジメント」について、初心者でも理解できるよう優しく解説します。まずはこの記事読んで「タレントマネジメント」について知識を深めて下さい。
Contents
1.タレントマネジメントとは
1.1.タレントマネジメントの概要
タレントマネジメントとは、欧米では主流の人材戦略手法で世界最大の人材マネジメント協会SHRMでは以下のように定義されている概念です。
人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の人材マネジメントのプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること。
少々難しい文章ですが、簡単にいうと人材(人財)の発掘、適材適所への配置、育成を戦略的に行うことにより企業全体の競争力を強化しようというものです。
「企業は人なり」「社員=人財」というように企業を作っているのは社員なのです。
1.2.タレントマネジメントを導入することの3つのメリット
ここではタレントマネジメントのメリットについて解説します。「タレントマネジメント」という人材戦略手法を導入することで多くのメリットを得ることができます。
メリット1:人材の最適配置・発掘の仕組み化
人材の最適配置については「クレイア・コンサルティング株式会社」様のページにて非常に分かりやすく解説されています。
人材最適配置とは、生産性の高い組織を実現するために、人員数・人員構成・配属状況を望ましい状態に導いていくための人事マネジメント手法。具体的には、適材適所の人事異動(会社内・グループ会社間)を行うための「人材と仕事のマッチングの仕組み」や社外へのアウトフローなどの手法が含まれる。
人材の最適配置を行うにはビジネス環境の変化に応じて人材と業務を流動的にマッチングすることが必要です。そして、人材と業務を流動的にマッチングするには以下3つの仕組みが必要です。
- 人材のポテンシャルを見極めて発掘する仕組み(人事評価)
ここで重要になるのは「現在の業務に対する公平公正な評価」と「その他の業務への適正評価」です。
- 人材と業務の組合せを固定化しない仕組み(ジョブローテーション)
幅広い業務を経験させることによりその社員に対する多様な視点で評価することができ、どのような業務に適正を持っているか見極めることができます。 - 社内公募性
要件に応じて幅広く候補者を募ることで多くの人材を発掘することができます。
このようにタレントマネジメントを導入することで人材の最適配置を行えるようになります。
メリット2:企業の成長戦略に沿った社員育成
タレントマネジメントでは人材の様々な情報(業務経歴、スキル、人事評価、適性検査など各種診断結果、アンケート結果など)を蓄積することで企業が必要としている人材が足りているのか、どれだけ足りていないのかを「公正公平」に分析します。そこに上長の主観は入りません。そして、企業の成長戦略に基づいた社員の育成プランの立案、PDCAサイクルでの実行を仕組み化することができます。
メリット3:最適な採用計画
タレントマネジメントを活用すると、企業全体や組織ごとにどのような人材がいるのか、どのような人材が足りていないのか可視化できるようになります。それをもとに人材の育成計画を行いますが、早急に補充が必要な人材については採用が必要になります。タレントマネジメントでは「どのような人材が足りていないのか」が客観的に判断できるため最適な採用計画をたてることができるようになります。
1.3.タレントマネジメントが日本で注目されている3つの理由
ここではなぜ今タレントマネジメントが日本で注目されているのか、その理由や背景を解説します。時代の流れに関わることですのでしっかり読んで下さい。
理由1:激しい競争環境・グローバル化
グローバル化が進んだ現代、企業の競争環境はどんどん激しくなっています。グローバル化が進むまでは日本企業の多くは日本市場の中で日本企業だけと競争していましたが、グローバル化が進んだ現代では多くの海外企業が日本市場に参入しました。また、日本市場の縮小が見えていることから日本企業も積極的に海外進出し世界と戦う時代となりました。
そのような環境の中で企業の競争力を高めるためには競争力の厳選である「人材」を強化する必要があります。そのためタレントマネジメントが注目されているのです。
理由2:少子高齢化社会・労働力の減少
日本をはじめ先進国では少子高齢化が進みどんどん労働力が減少していきます。労働力が減少していく中で、継続して成長していくには社員の能力を育成・高めるたり、最適な人材配置を行い企業全体の生産性を向上させる必要があります。このような社会的背景からもタレントマネジメントが注目されています。
理由3:雇用環境の変化
現在の日本は欧米ほどではないにせよ転職が当たり前となり終身雇用制度は終焉を迎えました。社員の流動化が激しくなったため、企業内へのナレッジの蓄積や企業への愛社精神の育成が企業の大きな課題となっています
社内を見渡せば自身の会社に対する愚痴・悪口を言っている社員が多くいるのが当たり前です。転職者は特に会社に対する忠誠心が低いものです。そのため社員を戦略的に育成していくためにタレントマネジメントが注目されているのです。
2.日本企業のタレントマネジメント導入事例
日本企業のタレントマネジメント導入事例では、日産と日立の事例がとても分かりやすいので参考にして下さい。
2.1.日産自動車の事例
日産は、カルロス・ゴーン氏が社長に就任してから人材マネジメントに力を注いでいて、2011年には「グローバルタレントマネジメント部」という部署を創設しています。そこでは、ビジネスリーダーの発掘・育成を目的としていて、社内で優秀な人材を発掘するスカウトのような役割を担う「キャリアコーチ」と呼ばれる人物が、各部署の上司からのレポートを元にビジネスリーダーの候補となる人材を探し出して、経営トップ層による委員会に提案します。
そこで評価されてビジネスリーダー候補に認められると、ハイポテンシャルパーソン(HPP)として登録され、キャリアコーチ、上司が個人ごとの育成プランを作り、さまざまなポストを経験しながら人材の成長を進めていくのです。こうしたHPPは当初40代が中心でしたが、最近では20代、30代にまで拡大していき、若い段階から企業のトップ層を担える優秀な人材の発掘・育成に力を入れています。
参考:ITmedia
2.2.日立製作所の事例
日立にはインフラ、ヘルスケア、情報・通信システムなどグローバルで事業が非常に多岐に渡り、さらに成長しなければならないという目標があります。しかし、こうした多岐に渡る事業のトップ、海外現地法人のトップを担う人材を育成するためには、質的にも量的にも今のままではカバーできないという危機感のもと、優秀な人材をこれまで以上に多く輩出する仕組みとして、タレントマネジメントを導入しました。
課題としては、全世界に30万人以上いると言われている日立の社員について、どのような人材がどこにいるのかが日本のヘッドクオーターから見えていなかったそうです。そうした状況で、リーダーとなる人材の量と質を確保することは難しい。そこで、多くの社員の人材情報をデータベース化し、リーダーを同じプラットフォームの上で育成していくために、パフォーマンス・マネジメント、グレードを共通化したのです。日立は5年程度の短期間にさまざまな施策を打ち、リクルーティングを行う人材エージェントもグローバルに統一しました。
また日立は「仕組みを作っただけで人が育つわけではない」という考えを強く持っています。人材を育てるためには「リーダーを意図的に育成していこう」という強い意識がなければならず、その育成責任は人事部門ではなく現場の上司であるという考えがあるのです。また、日本の企業には人材育成の「型」がありませんが、日立ではこの「型」を7つ作り、研修などに取り入れているそうです。さらに、人事部門の改革も進めていて、海外からもスタッフを入れて部署内に視点や考え方の転換を促し、スピード感も変えています。
参考:ITmedia
日産と日立の事例は図にもまとまっており分かりやすいので参考にして下さい。
日立や日産など大手企業の事例ばかりがニュースとして取り上げられていますが、「タレントマネジメントシステム」メーカーの導入事例を見ると大手以外の実績も多くあります。経済環境の変化に敏感な企業は企業規模に限らずいち早く取組んでいるのです。
- サイダス導入事例(http://www.cydas.com/products/casestudies/)
- スマートカンパニー導入事例(http://www.smartcompany.jp/case/index.html)
- Rosic導入事例(http://www.rosic.jp/case/)
3.タレントマネジメント導入の3つのポイント
ポイント1:全社的に取組む必要がある
タレントマネジメントは会社の未来に大きく関わるものであり人事部だけが取組むものではありません。企業の中長期的な経営戦略として全社をあげて取組む必要があります。
企業によっては旧来の日本的な人事管理制度から大きく変わるため、現場から反対の声があがるケースが多くあります。そのため、経営層自ら必要性を説明し強力なリーダーシップを持って取組む必要があります。
ポイント2:コンサルタントを雇う
タレントマネジメントは主に欧米で作られた概念であり、日本的な人事管理制度を行っていた企業では自社の力だけで行うと期待した効果を得られないことが多くあります。そのため、実績の高いコンサルタントを雇い導入すると良いでしょう。コンサルタントを雇うには高い費用が必要ですが客観的な視点から導入できるため、自社は当たり前となっていた制約を取り払うことができあるべき姿に近い形で導入できる確率が高くなります。
ポイント3:タレントマネジメントシステムが必要
タレントマネジメントを行うには、人事データの一元管理および様々なな人事データの分析・可視化が必要です。これらはアナログでは行えないため、タレントマネジメントの業務を支援する「タレントマネジメントシステム」が必要になります。
4.まとめ
この記事では近年話題のタレントマネジメントの概要を理解できるよう優しく解説してきました。タレントマネジメントはとても概念が深く実施するには専門的な知識も必要になります。タレントマネジメントに関する著書も多く出版されていますので担当者は本などでより詳しい知識をつけると良いでしょう。
タレントマネジメントシステムについてまとめた記事もありますので、次は以下の記事を読んでタレントマネジメントを支えるシステムについての理解を深めて下さい。