「PDMって何?」「導入のメリットは?」「商品の生産工程に課題があるけどどうしたら良い?」など様々な思いでこの記事にたどりついた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
PDMとは商品の生産工程の課題解決や効率化をするために有効なシステムです。
PDMは、あくまで業務を支える「ツール」であり、導入すればすべてが「ばら色」になるわけではありません。事前に多くの情報収集と緻密な計画、導入後も多くの努力が必要です。しかし、PDMの導入に関する詳しい情報はまだまだ共有が進んでいません。
そこでこの記事では、PDMの導入経験者が、導入を検討する企業が抑えておくべきPDMの基礎知識や成功の条件をどこよりも詳しく解説します。この記事を読めばPDMについての理解を深め、自社の課題解決にPDMが役立つか判断する事ができるようになります。
1.PDMとは
PDMとは、商品の企画、設計、生産工程などの情報を一元管理するシステム・仕組みのことです。製造業や製造小売業で主に活用されています。PDMを活用することにより、商品品質を向上したり、サプライチェーンの効率化や各工程の期間(リードタイム)を短縮化したりすることができます。車や電気製品などの工業製品の製造からアパレルや雑貨など幅広い業種で使われています。「Product Data Management」を略して「PDM」や「製品データマネジメント」と呼ばれています。
〈PDMの概要図〉
PDMを活用することにより、以下のような課題を解決することができます。
- 情報の検索が困難
- 管理すべき情報が多く管理が煩雑になってしまっている。版数管理ができていない。
- 会社の標準業務フローが守られておらず品質問題が発生する事がある
- 過去のナレッジが貯まっていかない
- 承認・申請に時間が掛かる
2.PDMの3つのメリット
PDMを活用することにより多くのメリットを得る事ができます。
2.1.情報の一元管理
PDMを活用する工程では、様々な部署が非常に多くの情報を扱います。そして商品数が多いほどその情報量は膨大になります。商品の増加に伴い情報はどんどん増えていき、ついにはサーバーでのフォルダ管理に限界が訪れます。探すのも困難、どのファイルが最新か分からない。情報を探すだけで時間が掛かるという状態になります。
PDMを導入することにより、このような課題を解決するだけでなく、生産性の向上や各部署とのリアルタイムでの最新情報の共有が可能となります。過去情報の検索、参照も容易になります。
2.2.業務フローの標準化
製造業では、商品の品質を担保するために会社の業務フローを遵守させることが非常に重要です。業務フローを守るということは、ひいては商品品質の担保・向上につながります。
しかし、会社の業務フローがあっても、誰もがそれを守れるとは限りません。業務フローを簡単に遵守できるようしっかり仕組み化していくことが重要です。
PDMを導入することにより、会社の業務フローを標準化する事ができます。
例えば、ワークフロー機能を活用することにより、ワークフローに沿って業務を進めていけば自然と会社の標準業務フロー通りに業務が進むようにする事ができます。管理が必要な情報が入力されていないと先に進めないよう制御することや、上長に自動アラートを飛ばし気づかせることができます。
2.3.生産性の向上
業務工程で莫大な量の情報を管理しなければならない製造業は、情報の管理をどう行うかによって生産性に大きな差が生まれます。商品数が多い会社や管理すべき情報が多い会社ほどPDMを導入することにより情報管理、検索の生産性が大きく改善されます。
また、システムに沿って業務を進めれば良いので無駄な作業が減り業務工程全体の生産性の向上も期待することができます。
3.PDMの活用事例3選
3.1.ヤンマー情報システム株式会社
農業用機械などの製造・販売を行っているヤンマーグループは、グローバル化を進めていく中で既存の仕組みの老朽化が進みグローバルに情報を連携することが難しくなっていた。そこで、ヤンマーグループの情報システム子会社であるヤンマー情報システムサービス株式会社のもと、PDMを導入することによりグループ会社や各種部門での情報共有を円滑にし、そして生産工程の工数削減と開発時間短縮を目指すことにした。
ヤンマーグループ経営層の理解とサポートも厚く、無事PDM導入を終え期待通りの工数削減と開発期間短縮を達成した。
3.2.株式会社日本メディックス
業務用の電気刺激療法機器でトップシェアを誇り、低周波治療など各種医療機器を開発・製造・販売している株式会社日本メディックスは、3次元CADを導入し設計を行っていたが設計図面データやドキュメント類の管理をファイルサーバーで行うことに限界を感じていた。
医療機器は構成部品も数多く購入部品の生産中止による設計変更も頻発するため、各種情報の管理が非常に煩雑になってしまっていた。そこで、これら課題を解決するためにPDMを導入することを決めた。
PDMを導入したことにより、ドキュメントの運用ルールも明確になりドキュメント管理作業が省力化することができた。また、他部署のスタッフによって重要な設計データやドキュメント類が改ざんされてしまうリスクも解消することができた。
3.3.キリンビール株式会社
ビールメーカー大手であるキリンビール株式会社は、商品や原材料の管理をExcelで行ってきたが、管理が煩雑でありお客様や市場などからの情報開示要求に対して、目的の情報を探しだすのに非常に手間となっていた。そこで、原材料や配合などを一元管理するPDMを導入することによりこれらの課題を解決することにした。
PDMを導入したことにより、原材料、配合、栄養成分などの情報やどの商品に同じ原材料が使われているかなど迅速に情報を抽出できるようになった。また、商品企画書も自動で作成できるようになり営業担当者の業務負荷の軽減にもつなげることができた。
4.PDMの主な機能
ここまでで、PDMの概要やPDMを活用することによりどのようなメリットがあるのか理解が進んだのではないでしょうか。本項ではPDMの一般的な機能について解説します。PDMのシステム的な知識についても深めることができます。
4.1.商品情報の登録、更新
企画設計に関する情報から商品マスタまで、各工程で管理すべき情報の登録や更新を行う機能です。ステータスを設定することにより、進捗状況を管理することもできます。
同じ商品でも異なるパターンで開発できるよう枝番やバージョン(版数)管理する機能もあります。また、商品と図面、部品や付属品など関連する情報を親子関係で紐付けたり、ツリー構造で管理したりすることもできます。
4.2.図面/文書管理
商品情報と紐づけて、図面や画像、文書など様々なファイルを管理する機能です。
文書の過去履歴を保持できるよう、バージョン(版数)管理する機能もあります。
また、CADシステムと連携し作成したファイルをスムーズに保存できるようになっている製品もあります。
4.3.部品/付属品管理
部品や付属品をマスタ管理する機能です。商品と部品や付属品を結びつけることにより製造原価の1つである材料費を可視化することができます。
4.4.検索
PDMに登録されている様々な情報を様々な検索条件で検索、抽出する機能です。
商品数や部品数が多い会社ほど検索機能の性能で業務効率が大きく変わります。
4.5.帳票出力
商品一覧や部品一覧など、入力した検索条件に応じて出力する機能です。
4.6.ワークフロー
業務の流れにそって、ワークフローを設定する機能です。
会社の標準業務フローに沿ってワークフローを設定することにより、標準業務フローに沿った業務を行えるようになります。ワークフロー上に商品のステータスと紐付けたチェックポイントを置くことにより、進捗が遅れている商品にアラートを表示したり、承認ポイントを置くことにより重要な工程で必ず責任者がチェックする仕組みにしたりすることもできます。
4.7.権限設定
ユーザーグループやユーザーごとに権限を設定することにより、使用できるメニューのコントロールや、自分が担当する工程や担当商品以外は更新できないようにするなど様々なコントロールが可能となります。
5.PDMを成功させる7つの条件
5.1.全社的な経営戦略として取り組む
商品の企画~生産工程を改革・改善するために活用するのがPDMです。この工程の改革の失敗は、商品力や品質の低下、業務コストの増加などに直結します。
最悪なケースでは、商品品質が低下し会社の存続に影響を与えてしまう可能性もあります。そのため、安易な判断で行うものではなく、全社的な経営戦略の一環として取り組むと良いでしょう。現在の課題とプロジェクトの目的をしっかり整理した上で、トップダウンで進めることが望ましいでしょう。
5.2.ボトルネックの発生に注意して業務設計を行う
業務工程に深く関わる取組みのため、設計結果によってはボトルネックが発生し業務負荷がかえって増加してしまうケースもあります。なるべくシンプルな仕組みにする事も時には重要です。
そして、まずは1部署または1ラインだけに導入し、様子を見てから他部署・他ラインに広げていく方法も良いでしょう。
5.3.商品の進捗を管理するステータスを複雑にしすぎない
進捗管理の仕組みを複雑にしすぎてしまうと、ステータス更新作業に時間が掛かりかえって業務負荷が増えてしまったり、更新作業が手間なために更新されなかったりというケースになる場合があります。
誰もがシステムに慣れているわけではありません。本当に必要となるチェックポイントを見極めてシンプルなものにすると良いでしょう。ある項目が入力されたらステータスが自動で更新される仕組みする方法もあります。
5.4.画面項目を増やしすぎない
PDMを導入する際におちいりやすいのが、この情報もあの情報も管理すべきということで項目を増やしすぎてしまうことです。そして可読性が低下します。可読性が低いと情報の入力や更新の効率も低下してしまいます。管理が必須である項目、管理することが望ましい項目、あったら良いレベルの項目など、優先度を整理してなるべく項目を少なくした方が業務効率も上がります。「何を管理するか」は「何を管理しないか」という事です。
それでも項目が減らせない場合は、項目を業務手順ごとに配置したり、「品質系項目」などグルーピングして配置したり、工程ごとに画面を分けてしまっても良いでしょう。
5.5.導入すればすべてが解決するわけではない
設計結果によっては、情報はしっかり管理できるようになったけど生産性は落ちてしまったという事もよくあります。システムが苦手な人は以前より作業に時間が掛かってしまう事もあります。そのため、導入後もユーザーがシステムをしっかり活用できるようサポートしていく必要があります。
業務フローが変わるたびにシステムへの影響を調査し、必要であれば改修していかなければなりません。よって、自社でワークフローを変更できるシステムかどうかも選定の際に確認した方が良いでしょう。
5.6.定量的な投資対効果を計りづらい
一般的にPDMを導入することにより生産性が向上すると言われていますが、生産性の定量的な効果を計ることが難しく投資対効果を数値で見せる事が難しいという現実があります。
またコストが直ぐに激減するケースは稀で新しい業務の流れ、新しいシステムにユーザーが慣れるに従い生産性は上がっていきます。
5.7.大きなシステム投資が必要
一般的にPDMを導入するにはイニシャルコストとして最低数千万は必要です。規模によりますが1億円以上費用が掛かることも珍しくありません。製品もASP型のサービスはほとんどなく、オンプレ型での導入がほとんどです。規模にもよりますがランニングコストも年間数百万~数千万円は見た方が良いでしょう。
6.主なPDM製品
PDMは古くからあるシステムですが、販売管理システムや在庫管理システムなどに比べて製品は多くありません。また、同じ製造業でも業種が異なれば必要な仕組みが異なってくるため、自社に合わせて汎用的なPDMを自社向けにカスタマイズして使う必要があります。自社の業務に合わせて1からフルスクラッチで開発するケースも珍しくありません。本項では、参考に主なPDM製品を解説します。
6.1.Obbligato III(NEC)
国内PLM/PDMシェアNo.1の製品。車の部品や計測器、飲料など大手企業を含め500社以上の導入実績を誇る製品です。また、PDM製品では、まだほとんどないSaas型のPDM「Obbligato for SaaS」もあります。
6.2.新日鉄住金ソリューションズPLM(新日鉄住金ソリューションズ)
20年以上の歴史を持ち、産業機械、医療機器、自動車、アパレルなど幅広い業種150社に導入実績があります。CADやBOMなどPDMの周辺システムとの連携実績も高い製品です。
6.3.PLEMIA(富士通株式会社)
エンジニアリングデータ管理、プロジェクト管理、部品構成管理など多くのラインナップがあり様々な業種、要件に対応できるようになっている製品です。
6.4.Aras Innovator(aras corp)
世界160カ国以上、1,000社以上の導入実績を持つ製品です。大手ではHONDAやAIRBUSなどに導入されています。豊富な機能を持っている製品です。
6.5.レクトラファッションPLM(レクトラジャパン)
アパレルや小物(バッグや靴)業界に特化した製品です。生地や各種部品など各種原材料、原価の管理まで幅広く機能を持っています。日本では、国内外約500店舗を展開するバロックジャパンリミテッドなどへの導入実績があります。
3.まとめ
この記事ではPDMの概要から効果、機能や注意点などをどこよりも分かりやすく解説してきました。PDMの導入を検討すべきか理解が進んだのではないでしょうか。
PDMは大規模システムであり簡単に導入できるものではありません。まずは自社の業務フローと課題を整理してPDMの活用方法を検討して下さい。PDMメーカーにヒアリングしてもらい提案をもらう事も重要です。